2017年06月16日

「トワイライト・シャッフル」 乙川優三郎

どれをとっても珠玉としかいいようのない短編集。彼の文体、とても好きです。
片岡義男よりも片岡的な、千葉外房、御宿らしい海辺の町でおこる出来事を淡々と語る。

カルロス・ジョビンのボサノバか、南佳孝を聴きながら読みたいね。

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2017年06月13日

「海も暮れきる」 吉村 昭

個人的に「放哉ブーム」 日本放哉学会編集の放哉研究という学術誌を熟読し、その余波で確か親父の本棚にあったな、と思うこの本、実家でさがすとやはりあった。昭和55年の第二刷版。

放哉の、ぼくの心の痛いところを掴んで離さないのは、精神的にダメで浮き沈みが激しく、酒に汚く、自分を律せないところ。読むほどに痛い。自分のことのように。

書状で人に媚び、金や酒や莨をねだる。その書を出した、次の瞬間、悔やみ、相手を罵り、罵倒する書を書いて出す。精神分裂でしかない。

放哉の来た道を歩いてみる。南郷庵の裏山にあがり、艀が出たであろう仏崎を見渡してみる。溝に落ちた水路を道の下に探して見る。

詩人であり、世捨て人であり、病人であり、酒乱でもあり、実は気の弱い男でしかなかった放哉のほんの一部分だけど知れた気がする。

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2017年06月04日

「R.S.ヴィラセニョール」 乙川優三郎

「メスティソ」という言葉を初めて知った。混血児のこと。フィリピンの父と日本人の母を持つ主人公は少女時代からイジメを経験し、混血というだけで謂われのない先入観で判断され日本人になれない人生を歩んできた。一方父は日本に暮らしながら、フィリピン流の考え方、生き方を貫く。

主人公レイは混血二世でありながら、現代琳派に共鳴する色彩感覚を持ち、染色工房を房総半島に構える。作品よりも人を見て、「和の美がわかるはずがない」と門前払いされ続ける中、本物をわかる店と出会い、工芸展で奨励賞を受賞し、ようやく生活のメドがたっていく。

この本が海外移住者が日本の染め物に挑戦し、苦労していく話だけでも「充分おなかいっぱい」なんだけど、これだけでなく、国際的な話になっていく。もうひとつの主題も読み応えありすぎで、二冊に分けてもいい本だったと思える内容でした。ちょっとネタバレすみません。

本は出会いだとつくづく思う。最近ピアノコンテスト、ギターコンテストなどを主題とした小説を読んで、それぞれの楽曲をネットで聴きながら読んでた。それと第二次世界大戦前夜のポーランド、ワルシャワの話とか、場所は違えど同時期の二.二六事件の話、ピカソのゲルニカの話を読むときはネットで年表を見たり、改めて史実を学んだり、ゲルニカを見たりした。

で、今回は年表を繰ったり、琳派、鈴木其一「芒野図屏風」を見たり。すべて最近読んだ本に繋がってくるのが不思議。

あ、サスペンスではありませんので。

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2017年05月29日

「咸臨丸、サンフランシスコにて」 植松 三十里

勝海舟でも、ジョン万次郎でもない咸臨丸の話。 

天領だった塩飽から水夫が集められ、アメリカ、サンフランシスコへ、蒸気船で向かう。

往きの船内で熱病が流行り、完治するまで帰れない水夫たち。その中でチャイナタウンで粉を買い、米国製さぬきうどんをつくり仲間を励ますもの。

九死に一生を得て、なんとか函館の港の灯をみて、「帰ろう、塩飽に帰ろう、道々さぬきに寄ってうどんを食おう」というと「シスコで食ったあれ以上のうどんは無い」といって泣く男たち。その時港に見えた世界各国の国旗を掲げた帆船こそ、日本が世界の大きな流れに巻き込まれる不吉な前兆だった。遅すぎた文明開化、この後数十年、茨の道を進み、完膚無きまで叩きのめされる日本だが。

とてもいいはなしです。おすすめします。
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2017年05月27日

「猫と漱石と悪妻」 植松 三十里

夏目漱石を妻の目で語った小説。文豪を美化せず、心の病を持ったことなども詳細に記しているのはいいと思う。

「吾輩は猫である」「明暗」「坊ちゃん」など名作の書かれた時の背景など興味深いが、「こゝろ」に触れられてないのが個人的に物足りない。

創作とは思いながら途中何度も、泣けたのは筆者の筆力、いい本でした。

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2017年05月22日

「サンライズ・サンセット」 山本一力

「おれも次に買い替えるときはトヨタにするつもりだ。いい色だな」
「ありがとう」
1時間の駐車チケットを2枚買った。
「あと5ドル出してくれたら、ピカピカに洗車しとくけど、どうだい?」
「洗車はいいや。洗うのが楽しみだから。わるく思わないでね」
「わかってるさ」

何気ない映画のワンシーンのような、アメリカ、ニューヨークの街の匂い、息づかい。

心がほっとする短編6つ。こんないい感じが現実ならいいけどな。

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2017年05月19日

「雪つもりし朝」 二・二六の人々 植松 三十里

本は出会いだと思う。こないだ第二次世界対戦開戦前夜のポーランドの話を読んで、久しぶりに図書館へ行ってふと手に取ったのがこれ、頃は同じく開戦前の日本。

226事件を複数の要人の目線から描いた群像劇。それぞれは、時の首相、岡田啓介。後に終戦時に首相となる鈴木貫太郎。当時外交官で 講和条約調印の首相となる吉田茂、などなど。

吉田茂氏の章に現副首相麻生太郎氏の幼少期のグッとくるエピソードが添えられてるけど、これは盛りすぎオマケだと思う(笑)。

今の時代にこそ平和、自衛力、国防をも一度考えようと思う。

いい本です。激しくオススメします。

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2017年05月14日

「また、桜の国で」 須賀しのぶ   

ポーランドを舞台に第二次世界大戦、開戦前夜からその後まで。

あまり意識したことがなかったけれど、ポーランドは「平和の国」という国名とはうらはらに歴史上二回に渡り正式な地図上から消滅している。

ユダヤ人差別は白人社会の中に昔から実はあったこと。ナチドイツのように民族根絶を目指した事は無かったにしろ。

ドイツ、ソ連に蹂躙され続けても戦い続けたポーランド、ワルシャワで。

ドイツに生まれたユダヤ系のポーランド人とソ連により強制的に疎開されてシベリアで生まれ、今はアメリカ国籍をもつポーランド人、そしてソ連系スラブ系民族で日本国籍の外交官がワルシャワ蜂起で立ちあがる。

いつか日本で桜の花見をしようと、絶望的な戦局で誓い合う。、、、
その後は読んでのお楽しみ。

極東アジアがなんだか焦臭い、今こそ読むべき戦争小説。

戦争に追い詰められると人間はここまで残虐になれるのか?やってしまうのか?

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2017年04月30日

「絞首台の黙示録」 神林 長平

ジョン・レノンのGod(神)
ーーーーーーーーーーーー
God is a concept
神とは概念なんだ
By which we measure
Our pain  
それによって痛みというものを測るための
ーーーーーーーーーーーーー
とかなりセンセーショナルに喝破した。
日本のように宗教は趣味程度の国でなく、キリスト教の国で歌ったからすごい。

この物語の冒頭の死刑執行の実況がかなり怖い。

死刑囚と面会する教誨師とも対立関係のまま、死刑が執行される、、、
そして死んだはずの者が蘇って、、、おぼろげながら意識は死んだはずのもの。

現実、リアル、クローン、幻想、妄想、、、どれがどれなのか

人の意識はそれ自体が単体で存在してるのでは無く、「意識の所在としての物」である身体とその周りの「環境」に影響され、また反対に影響を与えて存在する。ゆえにその身体が滅んでも「意識」は存在している。

怖いです。

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2017年04月23日

「ルパンの消息」 横山秀夫

時効寸前の自殺と見せかけた殺人事件 重大なタレコミがあった 時効成立のその日に急遽捜査のやり直し。
そして急転直下、、、、そして犯人は例の「三億円事件の犯人」でもあった。

昭和の頃の世相が懐かしく、おもしろかった。

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2017年04月18日

「真相」 横山秀夫

短編集です。それぞれ全く関連のない話です。

短編ならではのスピード感ある展開なのに、読後感は「おなかいっぱい」。

横山流ひねりが効きすぎていて、最後まで読むと、読んでいるときの予想を遙か彼方まで飛び越えていて、おもしろすぎる。

もし言えるなら、ちょっと話に「救い」を入れても佳かったのではないかと思ったりしますが、そんなことも、もちろん熟考の上での作風だと思います。本当に構成力、物語力、文章の上手さは超一流です。

犯罪を隠そうとする時の、周りに対する疑心暗鬼の心の描写がすごい、「18番ホール」、おすすめです。

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2017年04月15日

「笑いのカイブツ」  ツチヤタカユキ

ネットに連載されて、大反響を呼び、書籍化したいという出版社が押し寄せ、なんだかんんだあってとうとう書籍化された本。ピース又𠮷の火花の10倍痛くて、20倍つらくて、50倍突き刺さりました。けど文学賞については最低の罵詈雑言を浴びせているので無視されると思う。すごかった。

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2017年04月09日

「神様の裏の顔」  藤崎 翔

神様のような善人が実は大悪党だった、とか「実は、、」というのは歌舞伎の世界でもよくあって、「義経千本桜」で「佐藤忠信 実は 源九郎狐」とか、「助六由縁江戸桜」でも「助六 実は 曽我五郎時致」とか。別にこの本と歌舞伎とは関係ありませんが、あさってこんぴら歌舞伎へ行くのが、あまりにうれしくてつい(笑)。

本編は一人称の語り手が次々にバトンタッチしていく形。それぞれ個人で考えてることを、心の中で語っていく。それがどうなるのかはネタバレなので。

神様のように思えた人が、実は、、、どころか、その実は、、、
後は読んでのお楽しみ。

横溝正史賞の本格ミステリー。個人的に読後感は「うーーん」( ゚ω゚)…

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2017年04月08日

「私をくいとめて」 綿矢りさ

新聞の連載小説だった物語。「私」という一人称で語られる主人公は三十代のOL、自意識過剰気味で会社では存在の気配を消して生きている。特別な能力?として自分の中の別人格の話し相手を持つ。その別人格の「彼」は冷静に物事を理解し判断し主人公の相談に乗ったり、アドバイスを与える、その自分の脳内で話し相手になる声は自分の事を「iPhoneの中のSiriみたいだ」と自分で言う。

話の中で一行だけ、「精神科に通った」とある、、、、。

とはいっても、あまり深刻な話ではない。

たぶん作者自身の思いであると察するが、年末年始のイタリアの友人宅に滞在するため飛行機に乗っているときの「恐怖体験」が延々20ページに渡って書かれていて、あまり飛行機を信用していないぼくはとても共感できた。

軽く読めるのでおすすめです。

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2017年04月06日

「いつか、虹の向こうへ」 伊岡 瞬

いわゆるアウトロー警察VSやくざの話。

おもしろいのだけど、外国小説のような、段落の最後に、不必要に書き加えられてる一文、シニカルに、ある程度読み手の教養を前提としてる部分、うーん、感じ方の違いでぼくだけの個人的感想なのですが、チャーリー・ブラウンの4コマ目の哲学的なセリフ、それはそれでいいのだけど、日本ヤクザ小説には、いらんのんちゃうかなあとぼく自身は思った。どうでしょうか。

えらそうにすみません。

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2017年04月01日

「あひる」 今村 夏子

主人公は、定年後の両親と住む三十才くらいの女性、働いたことはなく、医療系の国家資格の勉強をしていて、年2回ある試験に今まで2回落ちている。

父の仕事時代の同僚からあひるをもらう。元同僚の人はもうすぐ孫が生まれる息子夫婦の家に引っ越すから。庭にニワトリ小屋があった、昔ニワトリを飼っていた。産みたての卵を取りにいくのは弟の役目だった。

あひるは「のりたま」という名前。元同僚がつけていた名前、そのまま。あひるを飼うようになって学校帰りの小学生たちがのりたまを見に来るようになり、散歩させるようになり、両親もお茶やお菓子を用意したりして、賑やかになる。

のりたまが病気になり、父が病院に連れて行く。いく日か後、のりたまは帰って来たけど、よくみると違うあひるだった。あれ?と思うけど両親はなにもいわないので「私」も何も言い出せない。

ありふれた日常の中に、ちょっと心がざわつくエピソードが淡々とした口調で語られて、最後にああそういうことだったのかと、もう一度読み返したくなるような、いろんな仕掛けがちりばめられてるおはなし。

この人の小説、いいなあ。「コンビニ人間」より芥川はこっちでしょ!!

kindle Unlimited で読みました。

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「殺人犯はそこにいる」 清水 潔

新書で発売されたころは、大騒ぎになった一冊。これは小説ではなく日本テレビの一記者が事件に疑問を抱き、徹底的な取材、調査し、その考えを雑誌、テレビ、書籍で世に流し、とうとう最高裁判決までひっくり返し、冤罪の容疑者を自由の身にした「実話」。その時、もう少しで手が届くところだったのに、、、、。

足利事件で検察に拷問的な取り調べで「嘘」の自白をさせられた元無期懲役囚は
「裁判になれば、きっと大岡越前にたいなすごい人が出てきて、何も聞かずに無罪とわかってくれる…」
と思っていたという。自供を強いる警察のことは諦めても、この国を信じていたのだ。 実はその奥はもっと暗い闇であったのだけれど。

げに恐ろしきは「司法官僚組織」です。読み応えありすぎです。

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2017年03月28日

「地図にない谷」 藤本 泉

平家の落人集落に隠れ住む人が、明治になってから初めて外部と接触したとき、「源氏はもうほろびたか?」とたずねたという話があるとか。おおよそに考えても600年。それだけの長い間、ただひとつ事を次々に伝承して生きていた一族もあるのかと想像すると、げに恐ろしきは人の心の「恨み、憎しみ」だと思われる。

徳川の元禄大弾圧のあと、記録は徹底的に取り締まられ、除地(のけち)の記録はどこにも残っていない、という話。

「いわゆる学校などで教える歴史とわれわれが足で調べる地方史とは大変にちがうだでね。それはちがうなんてもんじゃない。日本には表向きの歴史と本物の歴史があるだでね。」(原文ママ)

警察も行政も入らない山奥の谷の集落にまつわる話。江戸時代にさかのぼり、謀反を起こした者一族が「谷の陰」に押し込められ住んでいる。「谷の表」には陰を支配する一族が暮らす。陰には突然死んでしまう「いきなり病」という風土病が蔓延している。

風土病とされたその病気は、実は恐ろしい一族を根絶やしにしようとする企みだった。。。。

かなり読み応えのある一冊。コワー(゜Д゜)

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2017年03月19日

「風 葬」 桜木紫乃  

冷戦当時、北海道の東の端、根室にはレポ船というのがあった。ソ連に日米の情報を流したり、品物を持っていったりしてその見返りにソ連の領海内で漁業操業を黙認してもらう。花咲ガニ、ホタテは船が沈むほど獲れたらしい。そのころのアンダーグラウンドな話。

母子で書道教室を経営している主人公は、少々呆けてきた母が夜中に呟く「ルイカミサキに行かないと」という言葉を聞いていた。ある日新聞の文芸欄で「涙香岬」と詠んだ元小学校校長の句が目にとまり、その岬を訪れる。

いじめにより自殺した児童の親が起こした裁判、三十年前よりふかかいないきさつで失踪したままの女性、レポ船で莫大な儲けをあげ、土地の闇の部分を牛耳る老婆、、、、。

あれは誰からの送金だったんだ? 誰が小屋に火をつけた? いろいろと話が終わらないうちに本が終わってしまってちょっと、もやもや。

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2017年03月15日

永い言い訳  西川 美和

突然家族を失った人は、どのように人生を取り戻すのか。

人に言えない「後味が悪く、取り戻すことのできない別れ」 

あのとき一声かけていれば良かった、、、、
あんな事をなぜ言ってしまったのか、、、、

気持ちが入りすぎて 一気に読んでしまいました。
心が「どよーん」とします。

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